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「全電源喪失は起こらない」と答弁していた安倍総理大臣 2006年12月


平成十八年十二月十三日提出 質問第二五六号

巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問主意書

提出者  吉井英勝

 政府は、巨大地震に伴って発生する津波被害の中で、引き波による海水水位の低下で原子炉の冷却水も、停止時の核燃料棒の崩壊熱を除去する機器冷却系も取水できなくなる原発が存在することを認めた。
 巨大な地震の発生によって、原発の機器を作動させる電源が喪失する場合の問題も大きい。さらに新規の原発で始められようとしている核燃料棒が短時間なら膜沸騰に包まれて冷却が不十分な状態が生じる原発でも設置許可しようとする動きが見られる。また安全基準を満たしているかどうかの判断に関わる測定データの相次ぐ偽造や虚偽報告に日本の原発の信頼性が損なわれている。原発が本来的にもっている危険から住民の安全を守るためには、こうしたことの解明が必要である。
 よって、次のとおり質問する。

一 大規模地震時の原発のバックアップ電源について

 1 原発からの高圧送電鉄塔が倒壊すると、原発の負荷電力ゼロになって原子炉停止(スクラムがかかる)だけでなく、停止した原発の機器冷却系を作動させるための外部電源が得られなくなるのではないか。
 そういう場合でも、外部電源が得られるようにする複数のルートが用意されている原発はあるのか。あれば実例を示されたい。
 また、実際に日本で、高圧送電鉄塔が倒壊した事故が原発で発生した例があると思うが、その実例と原因を明らかにされたい。

 2 落雷によっても高圧送電線事故はよく起こっていると思われるが、その結果、原子炉緊急停止になった実例を示されたい。

 3 外部電源が取れなくても、内部電源、即ち自家発電機であるディーゼル発電機と無停電電源であるバッテリー(蓄電器)が働けば、機器冷却系の作動は可能になると考えられる。
 逆に考えると、大規模地震でスクラムがかかった原子炉の核燃料棒の崩壊熱を除去するためには、機器冷却系電源を確保できることが、原発にとって絶対に必要である。しかし、現実には、自家発電機(ディーゼル発電機)の事故で原子炉が停止するなど、バックアップ機能が働かない原発事故があったのではないか。過去においてどのような事例があるか示されたい。

 4 スウェーデンのフォルクスマルク原発1号(沸騰水型原発BWRで出力一〇〇・八万kw、運転開始一九八一年七月七日)の事故例を見ると、バックアップ電源が四系列あるなかで二系列で事故があったのではないか。
 しかも、このバックアップ電源は一系列にディーゼル発電機とバッテリーが一組にして設けられているが、事故のあった二系列では、ディーゼル発電機とバッテリーの両方とも機能しなくなったのではないか。

 5 日本の原発の約六割はバックアップ電源が二系列ではないのか。仮に、フォルクスマルク原発1号事故と同じように、二系列で事故が発生すると、機器冷却系の電源が全く取れなくなるのではないか。

 6 大規模地震によって原発が停止した場合、崩壊熱除去のために機器冷却系が働かなくてはならない。津波の引き波で水位が下がるけれども一応冷却水が得られる水位は確保できたとしても、地震で送電鉄塔の倒壊や折損事故で外部電源が得られない状態が生まれ、内部電源もフォルクスマルク原発のようにディーゼル発電機もバッテリーも働かなくなった時、機器冷却系は働かないことになる。
 この場合、原子炉はどういうことになっていくか。原子力安全委員会では、こうした場合の安全性について、日本の総ての原発一つ一つについて検討を行ってきているか。
 また原子力・安全保安院では、こうした問題について、一つ一つの原発についてどういう調査を行ってきているか。調査内容を示されたい。

 7 停止した後の原発では崩壊熱を除去出来なかったら、核燃料棒は焼損(バーン・アウト)するのではないのか。その場合の原発事故がどのような規模の事故になるのかについて、どういう評価を行っているか。

 8 原発事故時の緊急連絡網の故障という単純事故さえ二年間放置されていたというのが実情である。ディーゼル発電機の冷却水配管の減肉・破損が発生して発電機が焼きつく事故なども発生した例が幾つも報告されている。一つ一つは単純な事故や点検不十分などのミスであったとしても、原発の安全が保障されないという現実が存在しているのではないか。

二 沸騰遷移と核燃料棒の安全性について

 1 原発運転中に、膜沸騰状態に覆われて高温下での冷却不十分となると、核燃料棒の焼損(バーン・アウト)が起こる。焼損が発生した場合に、放射能汚染の規模がどのようなものになるのかをどう評価しているか。原子炉内に閉じ込めることができた場合、大気中に放出された場合、さらに原子炉破壊に至る規模の事故になった場合まで、それぞれの事故の規模ごとに、放射能汚染の規模や内容がどうなるかを示されたい。

 2 経済産業省と原発メーカは、コストダウンの発想で、原発の中での沸騰遷移(Post Boiling Traditional)を認めても「核燃料は壊れないだろう」としているが、この場合の安全性の証明は実験によって確認されているのか。
 事業者が沸騰遷移を許容する設置許可申請を提出した場合には、これまで国は、閉じ込め機能が満足されなければならないとして、沸騰遷移が生じない原子炉であることを条件にしてきたが、新しい原発の建設に当たっては沸騰遷移を認めるという立場を取るのか。

 3 アメリカのNRC(原子力規制委員会)では、TRACコードでキチンと評価して沸騰遷移(PBT)は認めていないとされているが、実際のアメリカの扱いはどういう状況か、またアメリカで認められているのか、それとも認められないのか。
 またヨーロッパなど各国は、どのように扱っているか。

 4 東通原発1、2号機(着工準備中、改良型沸騰水型軽水炉ABWR、電気出力一三八・五万kw)については、「重要電源開発地点の指定に関する規程」(二〇〇五年二月一八日、経産省告示第三一号)に基づいて、〇六年九月一三日に経済産業大臣から指定され、九月二九日に原子炉規制法第二三条に基づいて東通原発1号機の原子炉設置許可申請が国に出された。この中では、沸騰遷移が想定されているのではないのか。

 5 ABWRでは、浜岡5号機や志賀2号機などタービン翼の破損事故が頻発している。ABWRの東通原発が、沸騰遷移を認めて作られた場合に、核燃料が壊れて放射性物質が放出される事態になる可能性は全くないと実証されたのか。安全性を証明した実証実験があればその実例も併せて示されたい。
 また、どんな懸念される問題もないというのが政府の見解か。

三 データ偽造、虚偽報告の続出について

 1 水力発電設備のダム測定値や、火力・原発の発電設備における冷却用海水の温度測定値に関して測定データの偽造と虚偽報告が電力各社で起こっていたことが明らかになった。総ての発電設備について、データ偽造が何時から何時までの期間、どういう経過で行われたのか明らかにされたい。

 2 こうしたデータ偽造と虚偽報告は、繰り返し行われてきた。使用済核燃料の輸送キャスクの放射線遮蔽データ偽造、原発の溶接データ偽造、原子炉隔壁の損傷データ偽造とデータ隠し、配管減肉データ偽造、放射線量データ偽造など数多く発生してきた。日本の原子力発電が始まって以来の、こうした原発関連機器の測定データや漏洩放射線量のデータについての偽造や虚偽報告について年次的に明らかにされたい。

 3 原発の危険から住民の安全を守るうえで、国の安全基準や技術基準に適合しているのかを判断する基礎的なデータが偽造されていたことは重大である。そこで国としては、データ偽造が発覚した時点で、データが正確なものか偽造されたものかを見極める為に、国が独自に幾つかのデータを直接測定するなど検査・監視体制を強化することや、データ測定に立ち会って測定が適正かどうかのチェックをすることが必要である。国は、検査・監視体制を強化したのか、またデータ測定を行う時に立ち会ったのか。
 これだけデータ偽造が繰り返されているのに、何故、国はそうしたことを長期にわたって見逃してきたのか。

 右質問する。

 

平成十八年十二月二十二日受領
答弁第二五六号

  内閣衆質一六五第二五六号
  平成十八年十二月二十二日

内閣総理大臣 安倍晋三

       衆議院議長 河野洋平 殿

衆議院議員吉井英勝君提出巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員吉井英勝君提出巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問に対する答弁書

一の1について

 我が国の実用発電用原子炉に係る原子炉施設(以下「原子炉施設」という。)の外部電源系は、二回線以上の送電線により電力系統に接続された設計となっている。また、重要度の特に高い安全機能を有する構築物、系統及び機器がその機能を達成するために電源を必要とする場合においては、外部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給を受けられる設計となっているため、外部電源から電力の供給を受けられなくなった場合でも、非常用所内電源からの電力により、停止した原子炉の冷却が可能である。
 また、送電鉄塔が一基倒壊した場合においても外部電源から電力の供給を受けられる原子炉施設の例としては、北海道電力株式会社泊発電所一号炉等が挙げられる。
 お尋ねの「高圧送電鉄塔が倒壊した事故が原発で発生した例」の意味するところが必ずしも明らかではないが、原子炉施設に接続している送電鉄塔が倒壊した事故としては、平成十七年四月一日に石川県羽咋市において、北陸電力株式会社志賀原子力発電所等に接続している能登幹線の送電鉄塔の一基が、地滑りにより倒壊した例がある。

一の2について

 落雷による送電線の事故により原子炉が緊急停止した実例のうち最近のものを挙げれば、平成十五年十二月十九日に、日本原子力発電株式会社敦賀発電所一号炉の原子炉が自動停止した事例がある。

一の3について

 我が国において、非常用ディーゼル発電機のトラブルにより原子炉が停止した事例はなく、また、必要な電源が確保できずに冷却機能が失われた事例はない。

一の4について

 スウェーデンのフォルスマルク発電所一号炉においては、平成十八年七月二十五日十三時十九分(現地時間)ころに、保守作業中の誤操作により発電機が送電線から切り離され、電力を供給できなくなった後、他の外部電源に切り替えられなかった上、バッテリーの保護装置が誤設定により作動したことから、当該保護装置に接続する四台の非常用ディーゼル発電機のうち二台が自動起動しなかったものと承知している。

一の5について

 我が国において運転中の五十五の原子炉施設のうち、非常用ディーゼル発電機を二台有するものは三十三であるが、我が国の原子炉施設においては、外部電源に接続される回線、非常用ディーゼル発電機及び蓄電池がそれぞれ複数設けられている。
 また、我が国の原子炉施設は、フォルスマルク発電所一号炉とは異なる設計となっていることなどから、同発電所一号炉の事案と同様の事態が発生するとは考えられない。

一の6について

 地震、津波等の自然災害への対策を含めた原子炉の安全性については、原子炉の設置又は変更の許可の申請ごとに、「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(平成二年八月三十日原子力安全委員会決定)等に基づき経済産業省が審査し、その審査の妥当性について原子力安全委員会が確認しているものであり、御指摘のような事態が生じないように安全の確保に万全を期しているところである。

一の7について

 経済産業省としては、お尋ねの評価は行っておらず、原子炉の冷却ができない事態が生じないように安全の確保に万全を期しているところである。

一の8について

 原子炉施設の安全を図る上で重要な設備については、法令に基づく審査、検査等を厳正に行っているところであり、こうした取組を通じ、今後とも原子力の安全確保に万全を期してまいりたい。

二の1について

 経済産業省としては、お尋ねの評価は行っておらず、原子炉の冷却ができない事態が生じないように安全の確保に万全を期しているところである。

二の2について

 原子炉内の燃料の沸騰遷移の安全性に係る評価については、平成十八年五月十九日に原子力安全委員会原子力安全基準・指針専門部会が、各種の実験結果等を踏まえ、「沸騰遷移後燃料健全性評価分科会報告書」(以下「報告書」という。)を取りまとめ、原子力安全委員会が同年六月二十九日にこれを了承している。
 また、一時的な沸騰遷移の発生を許容する原子炉の設置許可の申請については、報告書を含む原子力安全委員会の各種指針類等に基づき審査し、安全性を確認することとしている。

二の3について

 政府として、諸外国における原子炉内の燃料の沸騰遷移に係る取扱いについて必ずしも詳細には把握していないが、報告書においては、米国原子力規制委員会(NRC)による改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の安全評価書の中で一定の条件下の沸騰遷移においては燃料棒の健全性が保たれるとされている旨が記載されており、また、ドイツでは電力会社等により沸騰遷移を許容するための判断基準についての技術提案が行われている旨が記載されている。

二の4について

 東京電力株式会社東通原子力発電所に係る原子炉の設置許可の申請書においては、報告書に記載された沸騰遷移後の燃料健全性の判断基準に照らし、一時的な沸騰遷移の発生を許容する設計となっていると承知している。

二の5について

 東京電力株式会社東通原子力発電所に係る原子炉施設の安全性については、報告書を含む各種指針類等に基づき審査しているところである。

三の1及び2について

 お尋ねについては、調査、整理等の作業が膨大なものになることから、お答えすることは困難である。なお、経済産業省においては、現在、一般電気事業者、日本原子力発電株式会社及び電源開発株式会社に対し、水力発電設備、火力発電設備及び原子力発電設備についてデータ改ざん、必要な手続の不備等がないかどうかについて点検を行うことを求めている。

三の3について

 事業者は、保安規定の遵守状況について国が定期に行う検査を受けなければならないとされているところ、平成十五年に、事業者が保安規定において定めるべき事項として、品質保証を法令上明確に位置付けたところである。
 御指摘の「データ測定」の内容は様々なものがあり、一概にお答えすることは困難であるが、例えば、電気事業法(昭和三十九年法律第百七十号)第五十四条に基づく定期検査にあっては、定期検査を受ける者が行う定期事業者検査に電気工作物検査官が立ち会い、又はその定期事業者検査の記録を確認することとされている。
 御指摘の「長期にわたって見逃してきた」の意味するところが必ずしも明らかではないことから、お答えすることは困難であるが、原子炉施設の安全を図る上で重要な設備については、法令に基づく審査、検査等を厳正に行っているところであり、こうした取組を通じ、今後とも原子力の安全確保に万全を期してまいりたい。